- 健康・ライフハック
- 2025年12月17日
【心理学】「飲み会がしんどい」は性格じゃない、脳の仕様です。内向型のための「社会的バッテリー」防衛術
12月中旬、忘年会シーズン真っ只中。「行きたくないな…」「す……

寝る前に、なんとなくスマホを開く。
目に入ってくるのは、事件、事故、炎上、物価高、誰かの怒りの投稿。気づけば30分も画面をスクロールしていて、布団に入ってもなんだか胸がざわざわする。
楽しい話題もあったはずなのに、思い出すのは、嫌なニュースばかり。
「どうしてSNSを開くと、不安な情報ばかり目に入るんだろう」と感じたことはありませんか?
それは、あなたの心が弱いからでも、SNSの使い方が下手だからでもありません。人の脳には、悪い情報のほうに強く反応し、よく覚え、つい広めてしまうというくせがあるのです。心理学では、これを「ネガティビティ・バイアス」と呼びます。
とろLaboで連載中の小説『見えない私が、隣にいたら ―白猫怪談―』の第四章に、このくせがそのまま描かれた場面があります。町で人が倒れた投稿は五千以上も共有されるのに、祭りを楽しみにしている女の子の明るい投稿は、数十しか共有されない。それを見た永輔は、こうつぶやきます。
「怖い話は、あっという間に回るのにさ。もう大丈夫だよ、楽しみだよって話は、全然広がらないんだよな」
――永輔(第20話)
なぜ、怖い話ほど、あっという間に広がるのでしょうか。今回は、心理学とSNSの研究から、その仕組みと、心をすり減らさない付き合い方を見ていきます。
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アメリカの心理学者ロイ・バウマイスターらは、2001年に「悪いことは、よいことより強い(Bad is stronger than good)」という論文を発表しました(Baumeister ら, 2001)。
彼らは、人間関係、感情、学習、記憶、健康など、さまざまな分野の研究を幅広く見渡し、ほとんどの場面で、悪い出来事のほうが、同じくらいのよい出来事よりも、人の心に大きな影響を与えていることを示しました。
たとえば、こんな経験に心当たりはありませんか?
なぜ、脳はこんなに悪い情報を重く見るのでしょうか。
よく言われるのが、生き延びるための仕組みだという説明です。おいしい木の実を一度見逃しても、また別の日に見つければいい。でも、草むらに潜む猛獣を一度でも見逃したら、命を落とします。
危険のサインに敏感で、それを強く覚えている祖先ほど、生き延びて子孫を残すことができた。その名残が、今の私たちの脳にも受け継がれている、というわけです。
脳の中で、危険にすばやく反応する警報装置の役割を担っているのが「扁桃体(へんとうたい)」です。悪いニュースを見て胸がざわっとするのは、この警報装置が働いているからです。
この脳のくせは、SNSの中でさらに強く表れます。
アメリカ・ニューヨーク大学のウィリアム・ブレイディらは、銃規制、気候変動、同性婚という意見の分かれるテーマについて、56万件以上のツイートを分析しました(Brady ら, 2017)。
すると、「憎い」「恥ずべき」「許せない」のように、道徳的な怒りや非難を含む感情的な言葉が1つ増えるごとに、リツイートされる数が約20%増えていました。
ただし、この拡散の多くは、もともと同じ考えを持つ人たちの間で起きていました。怒りの投稿は、仲間内でぐるぐる回り、意見の対立をさらに深めてしまう可能性があると、研究チームは指摘しています。
ニュースの見出しでも、同じ傾向が見つかっています。
アメリカのニュースサイトで、同じ記事に複数の見出しを用意して読者の反応を比べた、10万件以上の見出しのデータを分析した研究では、見出しにネガティブな言葉が1つ増えるごとに、クリック率が約2.3%上がり、ポジティブな言葉が1つ増えるごとに、約1%下がっていました(Robertson ら, 2023)。
ひとつひとつの差は小さくても、毎日数え切れないほどの見出しが流れてくるSNSでは、この差が積み重なっていきます。おもしろいことに、この研究で最もクリックを増やしたのは「悲しみ」の言葉で、「恐怖」の言葉はむしろクリックを減らしていました。人は、ただ怖がらせられるのではなく、心を揺さぶられる情報に引き寄せられるのかもしれません。
小説の第四章では、自作パソコンを操る整体師の真島が、町に広がる写真の歪みを分析し、ある法則に気づきます。「呪い」「怖い」「ふざけるな」といった言葉と一緒に広まった写真ほど、歪みが大きくなっていたのです。
「……怖がったり、怒ったりする気持ちを、餌にしてる」
――真島(第20話)
小説の中の歪みは、もちろん現実にはない怪異です。けれど、「怖がったり、怒ったりする気持ちが、情報を大きく広げていく」という部分は、現実のSNSとよく重なっています。
悪い情報に反応するのは、本来は身を守るための仕組みです。けれど、それを一日中浴び続けると、心と体に負担がかかります。
2013年、アメリカのボストン・マラソンで爆弾事件が起きました。カリフォルニア大学アーバイン校のロクサーヌ・シルバーらは、事件の2〜4週間後に、ボストン、ニューヨーク、全米の約4,700人を調べました(Holman ら, 2014)。
すると、事件の報道を1日6時間以上見ていた人は、1時間未満の人に比べて、強いストレス症状が出る割合が約9倍になっていました。しかも、報道を長時間見続けていた人のストレスは、実際に現場やその近くにいた人よりも強いほどでした。
画面の向こうの出来事でも、繰り返し浴び続けると、脳はそれを「自分の身に迫る危険」として受け止めてしまう。寝る前のスクロールで胸がざわざわするのは、そのためです。
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「朝に10分、夕方に10分」のように、見る時間をあらかじめ決めておきましょう。ボストンの研究のように、長く浴びるほど心への負担は大きくなります。スマホの利用時間を制限する機能を使うのもおすすめです。
寝る前に不安な情報を見ると、警報装置が鳴ったまま布団に入ることになり、眠りにも影響します。寝室にスマホを持ち込まない工夫は、「なぜ、あなたは『ベッドにスマホ』をやめられないのか?」の記事で詳しく紹介しています。
強い感情が動いたときほど、私たちは反射的に共有ボタンを押してしまいます。そんなときは、10秒だけ手を止めて、「これは本当か」「これを広めると、誰が得をして、誰が傷つくか」を考えてみてください。
ネガティブな言葉が入った見出しほど、クリックされやすい。それを知っておくだけでも、見出しにあおられにくくなります。気になる話題は、見出しだけでなく本文まで読み、できれば複数の情報源で確かめましょう。
悪い情報は、放っておいても広がります。よい情報は、誰かが意識して手渡さないと広がりません。
小説の第四章で、永輔と裕太は、祭りを楽しみにしている女の子の明るい投稿を、黙って共有します。大きな流れを変えるほどの力はないかもしれない。それでも、それは自分にできる、小さな、でも確かな対抗策です。
いつも怒っているアカウントや、不安をあおる情報ばかり流れてくるアカウントは、思い切ってミュートやフォロー解除をしてかまいません。自分が毎日浴びる情報は、自分で選べます。
ニュースやSNSを見るたびに強い不安に襲われる、眠れない日が続く、何も手につかない。そんなときは、心が疲れているサインかもしれません。SNSから少し離れる時間をつくり、家族や友人、かかりつけ医や心療内科など、話せる相手に相談してください。
不安な情報ばかり目に入るのは、あなたの脳が、あなたを守ろうと一生懸命働いている証拠です。だからこそ、その警報装置を一日中鳴らしっぱなしにしないように、情報との距離を、自分で選んでいきましょう。
小説の中で、怖さと怒りを餌に広がっていく歪みに、町の人たちはどう立ち向かうのか。その続きは、ぜひ物語で確かめてみてください。