- とろLabo用語集
- 2025年6月30日
【六臓六腑・胆】決断力の源!東洋医学の「胆(たん)」とは?~肝の相棒、その意外な役割~【とろLabo用語集】
「なかなか物事を決められない、優柔不断な性格で…」「大きな決……

朝晩がぐっと冷え込んで、そろそろインフルエンザのニュースが聞こえてくる季節になりました。
そんな時期に限って、なんだか体がだるい。熱があるわけではないけれど、朝から重くて、仕事も家事もはかどらない。
「免疫が落ちているのかな?」と不安になりますよね。でも実は、だるさには正反対の2つの顔があります。ひとつは免疫が弱っているだるさ。もうひとつは、免疫がウイルスと戦っているだるさです。
そして、この2つでは、やるべきことがまったく逆になります。今回は、東洋医学の「虚実(きょじつ)」という物差しと、現代の免疫学を重ねて、あなたのだるさがどちらなのかを見分ける方法と、それぞれの整え方をお伝えします。
東洋医学では、病気を「体を守る力」と「体を乱すもの」の綱引きとして考えます。
古典『黄帝内経(こうていだいけい)』には、この関係を表す有名な言葉がいくつも残されています。
正気存内、邪不可干(正気が内にあれば、邪は入り込めない)
――『素問』刺法論
邪之所湊、其気必虚(邪が集まるところでは、その気が必ず弱っている)
――『素問』評熱病論
つまり、同じウイルスに出会っても、守る力が十分なら病気にならず、弱っていれば入り込まれる。二千年前の医学は、「かかる人とかからない人の差」をこう説明していました。
そして、この綱引きの状態を見分ける物差しが「虚実」です。
邪気盛則実、精気奪則虚(邪気が盛んなものを実といい、精気が奪われたものを虚という)
――『素問』通評虚実論
「虚」は守る力が足りない状態。「実」は邪気が盛んで、体が全力で押し返している状態です。だるさにも、この2つがあります。
ひとつめは、守る力そのものが減っている「虚」のだるさです。東洋医学では「気虚(ききょ)」と呼び、エネルギーの口座が赤字になっている状態を指します。
特徴は、じわじわ続くこと。朝から体が重く、少し動いただけで疲れる。声に力がなく、ちょっとしたことで汗をかく。そして、かぜをひきやすく、ひくとだらだら長引きます。
この「守る力の不足」は、現代の研究でも確かめられています。
アメリカのカーネギーメロン大学などのチームは、164人の睡眠を1週間、腕時計型のセンサーで測ったあと、鼻にかぜのウイルスを垂らして経過を観察しました(Prather ら, 2015)。すると、睡眠が6時間未満の人は、7時間以上眠っている人に比べて、かぜをひく割合が約4.2倍にのぼりました。年齢やストレス、喫煙などの影響を差し引いても、睡眠時間は強い予測因子として残ったといいます。
同じ研究者のグループは、1991年にもストレスについて調べています(Cohen ら, 1991)。約400人の健康な大人にかぜのウイルスを接種したところ、事前に測ったストレスが高い人ほど、かぜを発症する割合が段階的に高くなっていました。
寝不足や長引くストレスで、体がすり減っていく。そうして守りが手薄になったところに、ウイルスが入り込む。「邪之所湊、其気必虚」は、現代のデータで見てもうなずける言葉なのです。
ふたつめは、体がウイルスと真正面からぶつかっている「実」のだるさです。東洋医学では、正気と邪気が激しく争う状態を「正邪相争(せいじゃそうそう)」と呼びます。
特徴は、急にドーンと来ること。昨日まで元気だったのに、ゾクゾクする寒気とともに熱が上がり、全身が重く、何もする気が起きない。インフルエンザの始まりは、まさにこのパターンです。
現代の免疫学には、「シックネス・ビヘイビア(病気行動)」という考え方があります。
ウイルスが体に入ると、免疫細胞はサイトカイン(IL-1β、IL-6、TNF-αなど)という物質を放出します。サイトカインはウイルスと戦う仲間を呼び集めるだけでなく、脳にも働きかけます。その結果として起こるのが、発熱、だるさ、眠気、食欲の低下、人と会いたくない気持ちです。
これらは、体が壊れているサインではありません。動き回るのに使うエネルギーを止めて、免疫の戦いに回すための調整だと考えられています。熱はウイルスが増えにくい環境をつくり、だるさはあなたを布団に押し戻す。つまり「実」のだるさは、免疫がしっかり働いている証拠でもあるのです。
当てはまる項目が多いほうが、今のあなたの傾向です。
| チェック項目 | 虚(弱っている) | 実(戦っている) |
|---|---|---|
| だるさの始まり方 | いつからか分からず、じわじわ続く | 急にドーンと来た |
| 熱 | 出ないか、微熱がだらだら続く | 急に高い熱が出る |
| 汗 | 少し動くだけで汗をかく | 寒気が強く、汗が出ない |
| 声・咳 | 声が小さい、咳に力がない | 声や咳に力がある |
| お腹を押すと | 手を当てられると心地よい | 押されるのがつらい |
| 経過 | 治りかけてはぶり返し、長引く | つらいが、峠を越えると一気に引く |
「お腹を押すと」の項目は、東洋医学の診察でも使われる見分け方です。虚の人は温かい手で押さえられると楽になり(喜按:きあん)、実の人は押されるのを嫌がる(拒按:きょあん)傾向があります。
虚のだるさは、まだウイルスと戦っているわけではありません。むしろ、これから来る流行に備えて、口座の残高を増やしておく段階です。東洋医学ではこれを「補う(補法)」といいます。
先ほどの研究のとおり、6時間を切る睡眠は守りを大きく削ります。サプリメントより先に、まずは睡眠時間を守ることが、いちばん確かな「補法」です。
東洋医学では、気の原料は胃腸(脾胃)が食べ物から作ると考えます。虚の状態のときは、胃腸も疲れていることが多いので、温かく、消化のよいものを選びましょう。
膝のお皿の下から指4本分下がった、すねの骨の外側にあるツボが「足三里(あしさんり)」です。胃腸の働きを助け、気を生み出す源を整える代表的なツボとされています。親指でゆっくり5秒押して離す、を5回ほど。お風呂上がりの温まった時間がおすすめです。
虚の人は、体表の門番(衛気)が手薄で、汗をかいたあとが特に無防備です。汗はすぐに拭き、首元を冷やさないようにしましょう。詳しくは「なぜ、風邪は“汗をかいた後”に引くのか?」で解説しています。
実のだるさは、体がすでに戦っている最中です。ここでやるべきことは「補う」ことではなく、免疫の戦いを邪魔しないことです。
だるさは、免疫がエネルギーを戦いに回すための命令です。ここで無理に出勤したり、運動で汗を流そうとしたりすると、そのエネルギーを奪い合うことになります。だるさには素直に従って、横になりましょう。
熱が出ると、汗や呼吸で水分がどんどん失われます。経口補水液やスープなど、飲みやすいものを少しずつ、こまめにとりましょう。
食欲が落ちるのも、病気行動のひとつです。「栄養をつけなきゃ」と無理に詰め込むと、弱った胃腸に負担がかかります。水分を優先し、食べられるようになったら、おかゆやうどんから戻していきましょう。
38℃以上の急な発熱に、頭痛や関節・筋肉の痛み、強いだるさなど全身の症状が重なるときは、インフルエンザの可能性があります。厚生労働省によると、抗インフルエンザウイルス薬は、発症から48時間以内に飲み始めると、発熱期間が1〜2日ほど短くなるとされています。セルフケアで様子を見ず、早めに医療機関に相談してください。
実際には、「疲れがたまっていたところに、かぜをひいた」というように、虚と実が重なっていることがよくあります。東洋医学ではこれを「虚実夾雑(きょじつきょうざつ)」と呼びます。
この場合、体は戦いたいのに、戦うための体力が足りません。熱が高く上がりきらず、だるさがだらだら続くのが特徴です。こんなときは、まず休んで守りを立て直すことを最優先にしてください。
漢方でも、体力のある人のかぜと、体力のない人のかぜでは、使う処方が異なります。かぜ薬として有名な葛根湯は、もともと体力があり、寒気がして汗が出ないタイプ向けの処方です。体質に合わない漢方薬は逆効果になることもあるので、選ぶときは薬剤師や漢方に詳しい医師に相談しましょう。
次のような症状があるときは、虚実の見分けやセルフケアよりも、受診を優先してください。
また、インフルエンザにかかった子どもや10代の若者では、急に走り出す、部屋から飛び出そうとするなどの異常行動が報告されています。発熱から少なくとも2日間は、ひとりにしないようにしましょう。
インフルエンザが本格的に流行する前の今は、「虚」を埋めておく絶好のタイミングです。今夜はいつもより30分早く布団に入って、あなたの正気の口座に、少しだけ貯金をしてあげてください。