励ましの言葉より効く?何も言わずに隣にいてくれる人の力|落ち込んだ友達にかける言葉に迷ったら

励ましの言葉より効く?何も言わずに隣にいてくれる人の力|落ち込んだ友達にかける言葉に迷ったら

友達が落ち込んでいるとき、何か言わなきゃと思うのに、言葉が出てこない。

「元気出して」は軽すぎる気がする。「大丈夫だよ」は無責任な気がする。アドバイスをしたら、かえって傷つけてしまうかもしれない。結局、何も言えずに、ただそばにいるだけになってしまった。そんな経験はありませんか?

でも実は、その「ただそばにいるだけ」こそが、心を支えるいちばん確かな方法かもしれません。

とろLaboで連載中の小説『見えない私が、隣にいたら ―白猫怪談―』の第二章に、まさにそんな場面があります。自分が広めた写真のせいで、後輩のあやめが倒れてしまった永輔。店の裏で一人しゃがみ込む彼の隣に、同級生の裕太は何も言わずに座り、冷たい缶を手に押しつけて、暗くなっていく路地を一緒に眺めます。

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第二章 拡大5それから数日のうちに、三番街の空気は、目に見えて変わっていった。「交差点の信号待ちで、耳元で誰かがずっとぶつぶつ……

後日、永輔はこう打ち明けます。

「俺さ、友達、多いだろ。……でもさ、あやちゃんが倒れて、店の裏で一人になったとき、気づいたんだよ。俺、こういうとき、誰に電話すればいいのか、わかんなかった」
――永輔(第11話)

「慰めもしないし、怒りもしないし。ただ隣に座って、ジュースくれて。……あれ、なんか、よかった」
――永輔(第11話)

なぜ、言葉のない「隣」が、こんなにも心に効くのでしょうか。今回は、心理学と脳科学の研究から、その理由を読み解いてみます。


友達の数と「電話できる相手」の数は、別物

永輔は友達が多い人です。それなのに、本当に困ったとき、電話をかける相手が思い浮かびませんでした。

これは、彼が特別に寂しい人だからではありません。人間関係には、もともと「層」があるからです。

イギリス・オックスフォード大学の進化心理学者ロビン・ダンバーは、人の付き合いが、親しさに応じた同心円状の層になっていると考えました。外側から順に、およそ150人、50人、15人、そしていちばん内側の約5人です。

ヨーロッパのある国で、約3,500万人分、約60億件の通話記録を分析した2016年の研究でも、この層の構造が確かめられました。いちばん内側の、特によく電話をかけ合う相手の数は、平均で約4人でした。

つまり、困ったときに頼れる「いちばん内側の人」は、誰にとっても数人しかいません。友達が何百人いても、その数人とのつながりが細ければ、いざというときに「誰に電話すればいいのか、わからない」ことは起こりうるのです。


手を握ってもらうだけで、脳の警報が静まる

では、その数人がそばにいると、心の中では何が起きているのでしょうか。

アメリカ・バージニア大学のジェームズ・コーンらは、2006年に、こんな実験をしました(Coan ら, 2006)。

結婚生活に満足している16人の女性に、MRI装置の中で「これから弱い電気ショックが来るかもしれない」という合図を見せます。そのとき、次の3つの条件で脳の反応を比べました。

  • 夫の手を握っている
  • 知らない男性の手を握っている
  • 誰の手も握っていない

結果、夫の手を握っているときは、脅威に反応する脳の活動が大きく減りました。知らない人の手でも少しは減りましたが、その差ははっきりしていました。さらに、夫婦関係の満足度が高い人ほど、この「警報が静まる」効果は強く出ていました。

言葉は何もかけていません。ただ、信頼できる人がそこにいて、手を握っていた。それだけで、脳は「いま、ひとりで全部を背負わなくていい」と判断したのです。


誰かと一緒だと、坂道までゆるやかに見える

隣にいる人の力は、ものの見え方まで変えてしまいます。

アメリカ・バージニア大学のシモーネ・シュナルらは、学生に坂のふもとに立ってもらい、その坂の傾きを見積もってもらいました(Schnall ら, 2008)。

すると、友達と一緒に来た人は、一人で来た人よりも、坂をゆるやかに見積もりました。さらに、別の実験では、実際には一人でも、「支えてくれる友達」を思い浮かべてから坂を見た人は、どうでもいい人や苦手な人を思い浮かべた人よりも、坂をゆるやかに感じていました。

研究チームは、友達との関係が長く、親しく、温かいほど、この効果が強いことも報告しています。

目の前の坂は同じでも、隣に誰かがいれば、それは「登れそうな坂」に変わる。落ち込んでいるときの悩みも、きっと同じです。


励ましの言葉が、かえって重くなることもある

ここで、少し意外な研究も紹介しておきます。

アメリカのニール・ボルジャーらは、難関の司法試験を控えた人とそのパートナーに、毎日の日記をつけてもらいました(Bolger ら, 2000)。そして、「パートナーから支えてもらった」と受け手が感じた日と、パートナーが「支えた」と答えた日を、別々に記録しました。

すると、受け手が「支えてもらった」とはっきり自覚した日の翌日は、むしろ不安や落ち込みが強くなる傾向がありました。一方で、パートナーは支えていたのに、受け手はそれと気づいていなかった日は、翌日の落ち込みが軽くなっていました。

研究チームは、これを「見えないサポート」と名づけました。

はっきりした励ましや助言は、ありがたい反面、「自分は助けが必要なほど弱っている」「この人に借りができた」と、受け手に感じさせてしまうことがあります。いちばん効いたのは、支えられていると意識しないまま、自然に受け取れる支えだった、というわけです。

なお、その後の研究では、この結果がそのまま再現されなかったものもあり、「見えない支えが必ず一番」とまでは言い切れません。それでも、「励ましの言葉は、多ければ多いほどいい」わけではないことは、心に留めておく価値がありそうです。


裕太がしたこと、しなかったこと

ここで、小説の場面に戻ってみましょう。永輔の言葉を借りれば、裕太がしたのは、こんなことでした。

  • 慰めなかった:「お前のせいじゃない」とも「大丈夫だよ」とも言わない。永輔の気持ちを、勝手に評価しない
  • 怒らなかった:「なんであんな写真を上げたんだ」と責めない。正論は、本人がいちばんよくわかっている
  • 隣に座った:向かい合うのではなく、肩を並べて、同じ路地を眺める
  • 冷たい缶を渡した:言葉の代わりに、小さな行動で「ここにいるよ」と伝える

向かい合って話すと、どうしても相手の表情や答えに意識が向きます。でも隣に並んで同じ方向を見ていると、話してもいいし、黙っていてもいい。答えを求められない安心感があります。

そして、手に押しつけられた冷たい缶は、「支えてやる」という大げさな言葉にはなりません。ボルジャーらの言う「見えないサポート」に近い、受け取る側に負担をかけない支えです。

コーンらの実験で、手を握るだけで脳の警報が静まったように。シュナルらの実験で、友達がいるだけで坂がゆるやかに見えたように。永輔の「あれ、なんか、よかった」は、ちゃんと理由のある感覚だったのです。


「隣にいる人」になるための4つのコツ

落ち込んでいる人のそばで、何を言えばいいか迷ったら、次のことを思い出してください。

1. 言葉を探すより、まず座る

うまい言葉が見つからなくても大丈夫です。黙って隣に座る、同じ部屋にいる。それだけで、相手の脳は「ひとりではない」と受け取っています。

2. 評価もアドバイスも、聞かれるまでとっておく

「それは仕方ないよ」「次はこうしたら?」は、相手が落ち着いてからで十分です。まずは、相手の気持ちに点数をつけないことが大切です。

3. 言葉の代わりに、小さな行動で伝える

温かい飲み物を置く、ひざ掛けを渡す、帰り道を一緒に歩く。「何かあったら言ってね」より、具体的な小さな行動のほうが、受け取る側の負担になりません。

4. 向かい合うより、並んで座る

カウンター席、ベンチ、車の助手席。同じ方向を見られる場所のほうが、相手は話したいときに話し、黙りたいときに黙ることができます。


「隣にいてもらえる自分」になっておく

永輔のように、困ったときに誰に電話すればいいかわからない、という人もいるかもしれません。

人とのつながりは、長い目で見ると体の健康にも関わります。148の研究、のべ30万人以上のデータをまとめた分析では、人とのつながりが強い人は、弱い人に比べて、調査期間中に生存している可能性が約50%高いという結果が出ています(Holt-Lunstad ら, 2010)。研究チームは、その影響の大きさを、喫煙などのよく知られた健康リスクに匹敵すると述べています。

いちばん内側の数人は、困ったときに急に作れるものではありません。普段から、ちょっとした頼みごとをする。相手が落ち込んでいるときは、自分が隣に座る。そうした小さなやりとりの積み重ねが、いざというときに電話をかけられる相手を育てていきます。


まとめ

  • 友達が多くても、困ったときに頼れる「いちばん内側の人」は、誰にとっても数人しかいない
  • 信頼できる人に手を握ってもらうだけで、脅威に反応する脳の活動は静まる
  • 支えてくれる友達がいる(思い浮かべる)だけで、坂道までゆるやかに見える
  • はっきりした励ましより、受け取る側が負担に感じない「見えない支え」が効くこともある
  • 言葉に迷ったら、まず隣に座る。評価やアドバイスより、小さな行動で「ここにいるよ」と伝える

落ち込んでいる人に、気の利いた言葉をかけられなくても、自分を責めなくて大丈夫です。黙って隣に座ってくれたその時間を、相手はきっと、あとになって「あれ、なんか、よかった」と思い出してくれるはずです。


この記事の「何も言わずに、隣に座ってくれる友達」が出てくる小説を、とろLaboで連載しています。

『見えない私が、隣にいたら ―白猫怪談―』第10話を読む(はじめから読むなら目次へ)

参考文献

  • Coan, J. A., Schaefer, H. S., & Davidson, R. J. (2006). Lending a hand: Social regulation of the neural response to threat. Psychological Science, 17(12), 1032–1039.
  • Schnall, S., Harber, K. D., Stefanucci, J. K., & Proffitt, D. R. (2008). Social support and the perception of geographical slant. Journal of Experimental Social Psychology, 44(5), 1246–1255.
  • Bolger, N., Zuckerman, A., & Kessler, R. C. (2000). Invisible support and adjustment to stress. Journal of Personality and Social Psychology, 79(6), 953–961.
  • Holt-Lunstad, J., Smith, T. B., & Layton, J. B. (2010). Social relationships and mortality risk: A meta-analytic review. PLoS Medicine, 7(7), e1000316.
  • MacCarron, P., Kaski, K., & Dunbar, R. (2016). Calling Dunbar’s numbers. Social Networks, 47, 151–155.