小さなYESを積み重ねる交渉術「フット・イン・ザ・ドア」とは?【心理学】

小さなYESを積み重ねる交渉術「フット・イン・ザ・ドア」とは?【心理学】

「このお願い、引き受けてもらえるだろうか…」
「きっと、いきなり頼んだら断られてしまうだろうな…」

仕事での依頼や、プライベートでのお願い事。相手に「NO」と言われるのが怖くて、なかなか一歩を踏み出せない。そんな経験はありませんか?

もし、相手が気持ちよく「YES」と言ってくれる確率を、ぐっと高める方法があるとしたら知りたくありませんか?

今回は、そんな場面で役立つ古典的かつ強力な心理テクニック「フット・イン・ザ・ドア」について、その仕組みと具体的な使い方を解説します。


「フット・イン・ザ・ドア」とは?

「フット・イン・ザ・ドア・テクニック(Foot-in-the-door Technique)」とは、まず相手がほぼ確実に受け入れてくれるような小さな要求をし、それが受け入れられた後に、本命である、より大きな要求をするという段階的な要請法のことです。

訪問販売員が、まず「ドアに足(Foot)を挟む」という小さな目的を達成し、最終的に高額な商品を売る、というイメージからこの名がつきました。


なぜ効果があるのか?:心理学の「一貫性の原理」

このテクニックが強力なのは、私たちの心に深く根ざした「一貫性の原理」が働くためです。

「一貫性の原理」とは、「自分の行動、発言、態度などを、過去のものと一貫させたい」という心理的な傾向のことです。

一度、最初の小さな要求に「YES」と答えると、相手の心の中には「私はこの人に協力的な人間だ」という自己認識が生まれます。その後の、より大きな要求を断ってしまうと、その自己認識と矛盾が生じてしまいます。この矛盾による不快感を避けるため、無意識のうちに「今回も協力的な態度を取ろう」と、次の要求も受け入れやすくなるのです。


実践!3つのステップと具体例

では、実際にどう使えばいいのか。3つのステップで見ていきましょう。

#### ステップ1:絶対に断られない「小さなYES」を準備する

最初の要求は、相手にとって何の負担にもならず、「それくらいなら…」と即答で「YES」と言えるものに設定するのが重要です。

#### ステップ2:最初の要求をし、承諾を得る

相手に小さな要求を提示し、明確な「YES」を引き出します。この「一度YESと言わせる」という事実が、後の交渉の鍵となります。

#### ステップ3:感謝を述べ、本命の要求を切り出す

最初の要求を受け入れてくれたことに感謝を伝えた後、間を空けすぎずに本命の要求を切り出します。

【具体例:職場で】

  • ステップ1&2(小さなYES)
    「〇〇さん、少しよろしいですか?今度の会議で使う資料なんですけど、このグラフの色が見やすいか、ちょっとだけご意見いただけますか?」
    「ああ、いいですよ。A案の方が見やすいと思います」
  • ステップ3(本命のYES)
    「ありがとうございます、助かります!それで、実はこの資料全体について、内容に違和感がないか、15分ほどお時間をいただいてレビューをお願いできないでしょうか?」

いきなり「資料のレビューをお願いします」と頼むより、格段に受け入れてもらいやすくなるはずです。


フット・イン・ザ・ドアを使う上での注意点

このテクニックは強力ですが、万能ではありません。注意点を2つ押さえておきましょう。

  • 最初の要求と本命の要求に関連性を持たせる
    全く関係のない要求をすると、相手に不信感を与えてしまいます。あくまで自然な流れを意識しましょう。
  • 要求のステップを大きくしすぎない
    「アンケートに答えてください」から、いきなり「100万円の契約をしてください」では、さすがにうまくいきません。相手が「一貫性を保ちたい」と思える範囲の、常識的な要求を心がけましょう。

まとめ

「フット・イン・ザ・ドア」は、相手を無理やり言いくるめるための話術ではありません。相手の「YES」と言いやすい状況をこちらが作り出し、お互いが気持ちよく合意に達するための、思いやりのある交渉術です。

大きなお願いをするのが苦手な方は、まず「絶対に断られない小さなお願い」から始めてみてはいかがでしょうか。その小さな一歩が、あなたのコミュニケーションを円滑にする大きな力となるはずです。