【脳科学】脳はなぜ「忘れたがる」のか?記憶のゲートキーパー「海馬」の正体と、物理的に脳の容量を増やす唯一の方法

【脳科学】脳はなぜ「忘れたがる」のか?記憶のゲートキーパー「海馬」の正体と、物理的に脳の容量を増やす唯一の方法

「あれ、あの人の名前なんだっけ…?」
「さっき何をしようとしてたんだっけ…?」

またド忘れした、と嘆く必要はありません。
実は、あなたの脳は「ポンコツ」なのではなく、「優秀な断捨離マスター」なのです。

もし、見たもの聞いたもの全てを記憶してしまったら、私たちは生きていけません。
今回は、脳があえて記憶を拒む「忘却のメカニズム」と、それでも記憶力を底上げしたい人のための「海馬を物理的に大きくする科学的方法」を解説します。


第1章:なぜ脳は、必死に「記憶」を捨てようとするのか?

私たちは「記憶力が良い=優秀」と思いがちですが、脳の基本戦略は逆です。
「いかに忘れるか」に命をかけています。その理由は2つあります。

① 検索エンジンのパンクを防ぐため

脳内を「Google検索」だと想像してください。
もし、「朝食べたパンの味」「すれ違った人の服の色」「風の音」など、全ての情報を保存してしまったらどうなるでしょうか?
本当に必要な「重要な情報(仕事の約束や、危険な場所)」が、膨大なゴミ情報(ノイズ)に埋もれてしまい、検索できなくなります。
脳にとって「忘れる」とは、情報を捨てることではなく、「重要な情報を際立たせるための整理整頓」なのです。

② 省エネ設計のため

脳は、体重のわずか2%の重さしかありませんが、体全体のエネルギーの約20%も消費する大食らいの臓器です。
不要な記憶(シナプス)を維持することは、膨大なエネルギーの無駄遣いであり、生存本能に反します。
だからこそ脳は、使わない情報は容赦なく削除し、エネルギーを節約しようとするのです。


第2章:記憶の門番「海馬」と、作業机「ワーキングメモリ」の関係

では、どの情報を捨てて、どれを残すのか?
それを決めているのが、耳の奥にある「海馬(かいば)」です。

脳の記憶の仕組みは、よく「図書館」に例えられます。

  • 海馬 = 「図書館の司書(整理係)」
  • ワーキングメモリ = 「閲覧机(作業スペース)」
  • 大脳皮質 = 「書庫(長期保管庫)」

新しい情報はまず、作業スペースである「ワーキングメモリ(机)」に置かれます。
しかし、机の広さは有限です。
ここで、司書である「海馬」の手際が悪いと、机の上は「返却待ちの本」や「分類待ちの書類」で溢れかえってしまいます。
これが、「頭がテンパる」「話の内容が入ってこない」という状態です。

逆に、海馬がサクサクと情報を処理(これは捨てる、これは書庫へ送る)してくれれば、ワーキングメモリは常にクリアな状態になり、新しい作業に集中できます。
つまり、海馬を鍛えることは、記憶力だけでなく、「頭の回転の速さ」を助けることにも繋がるのです。


第3章:大人でも間に合う!海馬を「物理的に大きくする」科学的メソッド

「でも、大人になったら脳細胞は増えないんでしょ?」
そう思っていませんか?

実は近年の研究で、脳の中で唯一、海馬だけは死ぬまで細胞が増え続け、物理的に大きくなる(神経新生)ことが証明されています。
では、どうすれば海馬は大きくなるのか?
その最強のスイッチが「有酸素運動」です。

海馬を育てる肥料「BDNF」

「少し息が上がる程度」の有酸素運動(ウォーキングや軽いジョギング)をすると、筋肉や脳から「BDNF(脳由来神経栄養因子)」という物質が分泌されます。
これは、いわば「脳の肥料」です。
このBDNFが海馬に届くと、新しい神経細胞が生まれ、海馬の体積が物理的に増加することが分かっています。

筋トレよりも「散歩」?

ある研究では、激しい筋トレよりも、ウォーキングなどの有酸素運動の方が、海馬を大きくする効果が高いというデータもあります。
また、海馬は「場所」を記憶する器官でもあるため、ランニングマシンよりも、「景色の変わる外の道」を歩く方が、より海馬を刺激します。


まとめ

「忘れる」ことは、脳の健康な機能です。自分を責める必要はありません。
しかし、海馬というハードウェア自体は、いくつになってもアップグレード可能です。

特別な脳トレはいりません。
今日から、いつもより少し早歩きで散歩をしてみる。
それだけで、あなたの脳の容量は、物理的に増え始めています。