オキシトシンとは?「愛情」と「排他」を司る絆ホルモンの光と闇

オキシトシンとは?「愛情」と「排他」を司る絆ホルモンの光と闇

はじめに

オキシトシン(Oxytocin)とは、脳の視床下部で作られ、下垂体から分泌されるペプチドホルモンの一種です。

他者とのスキンシップや信頼関係によって分泌され、安らぎや幸福感をもたらすことから、通称「愛情ホルモン」「抱擁ホルモン」と呼ばれます。 しかし、近年の研究では、オキシトシンには仲間意識を強める一方で、部外者に対する「攻撃性」や「妬み」を増幅させるという、意外な「裏の顔(ダークサイド)」があることも判明しています。 この記事では、オキシトシンの生理学的機能と、その二面性について解説します。

1. 【定義と産生場所】脳と全身へのダブル作用

オキシトシンは、脳内では「神経伝達物質」、血流に乗れば「ホルモン」として、二刀流の働きをします。

定義

ギリシャ語の「oxus(速い)」と「tokos(出産)」を語源とし、元々は分娩時の子宮収縮や、授乳時の射乳を促す女性特有のホルモンとして発見されました。 現在では、性別に関わらず「社会的な絆(ソーシャル・ボンディング)」形成に不可欠な物質であることが分かっています。

産生・分泌場所

脳の司令塔である「視床下部(ししょうかぶ)」で合成され、その下の「下垂体後葉(かすいたいこうよう)」から血管内へ、または脳内の各領域へ放出されます。

2. 【光の機能】癒やしと信頼のメカニズム

私たちがオキシトシンに求める「ポジティブな効果」は、主に扁桃体への作用によってもたらされます。

① 不安と恐怖の抑制(抗ストレス)

オキシトシンは、恐怖や不安の震源地である「扁桃体(へんとうたい)」の活動を鎮静化させます。 信頼できる人と一緒にいるとホッとするのは、オキシトシンが脳内の警報アラームを解除してくれるからです。

② 信頼と共感の増幅

相手の表情から感情を読み取る能力(共感性)を高め、「この人を信じてもいい」という心理的ハードルを下げます。 これは、群れで生きる人間が集団を維持するために進化した生存戦略です。

💡 【コラム】「タッチ」の魔法

オキシトシンを出す最も簡単な方法は「グルーミング(毛づくろい)」です。 人間においては、手をつなぐ、ハグをする、マッサージを受ける、あるいはペットを撫でるといった「心地よいスキンシップ」がそれに当たります。

面白いことに、これは「触れられている側」だけでなく、「触れている側(撫でている側)」にも同様にオキシトシンが分泌され、双方が癒やされる仕組みになっています。

3. 【闇の機能】「身内びいき」と攻撃性

ここが重要です。オキシトシンは単なる「平和の使者」ではありません。
「仲間を愛する」ということは、裏を返せば「仲間以外を排除する」ことにも繋がります。

① 内集団バイアス(身内びいき)

オキシトシンが増えると、自分が所属するグループ(家族、チーム、自国)への結束は強まりますが、同時に「外のグループ(敵、よそ者)」に対する攻撃性や排他性が高まることが実験で示されています。 「家族を守るためなら、侵入者を攻撃しても構わない」という防衛本能のスイッチでもあるのです。

② 「妬み」の強化

イスラエルのハイファ大学の研究によると、オキシトシンは、競争相手に対する「嫉妬心(エンヴィー)」や、相手の不幸を喜ぶ「シャーデンフロイデ」の感情をも強める可能性が示唆されています。 愛情が深いほど、裏切られた時の憎しみが深くなるのも、このホルモンの作用と言えます。

💡 【コラム】愛情のスポットライト

オキシトシンは、暗闇の中で仲間を照らす「強力なスポットライト」のようなものです。

光(仲間への愛)が強くなればなるほど、その周囲にできる影(よそ者への無関心や敵意)もまた、濃く深くなります。 オキシトシンは「みんなを愛する博愛のホルモン」ではなく、「味方を強烈に愛するための依怙贔屓(えこひいき)のホルモン」だと理解しておきましょう。

4. 他の幸福物質との比較

最後に、幸せホルモントリオの違いを整理します。

ドーパミン(報酬)

「もっと欲しい!」「やったぞ!」(興奮・意欲・未来志向)

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セロトニン(健康)

「清々しい」「これでいい」(安定・平常心・現在志向)

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オキシトシン(絆)

「ホッとする」「一人じゃない」(安心・つながり・対人志向)

まとめ

オキシトシンは、私たちが社会的な動物として生きるための接着剤です。

ストレス社会において、その「癒やし効果」は救いとなりますが、同時に「排他性」という副作用も併せ持っています。
「仲間を大切にする」ことと、「外の人を攻撃する」ことを混同しないように。
理性の脳(前頭前野)を働かせながら、この強力な愛情ホルモンと付き合っていくことが大切です。