デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)とは?「脳疲労」の正体と、創造性を生む安静時回路

デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)とは?「脳疲労」の正体と、創造性を生む安静時回路

はじめに

デフォルト・モード・ネットワーク(Default Mode Network:DMN)とは、意識的な活動をしていない「安静時」に、脳内で特異的な同期活動を示す神経回路の総称です。

かつて、休息時の脳は活動を停止していると考えられていましたが、2001年に米国の神経学者マーカス・レイクル(Marcus Raichle)らによって、実際には安静時こそが脳のエネルギー代謝の大部分を占めていることが提唱されました。 この記事では、DMNの解剖学的な定義、主な機能、そして「脳疲労」や「創造性」との深い関わりについて、最新の脳科学的知見に基づいて解説します。


1. 安静時における基底活動

脳には、特定の課題(計算や読書など)を行っている時に活性化する領域と、反対に課題から離れた時に活性化する領域が存在します。DMNは後者に該当します。


 外部からの刺激処理や、意図的なタスク実行を行っていない「安静状態(Resting State)」において、自発的に活性化する脳領域のネットワークです。
  脳の活動における「ベースライン(基底状態)」を形成しています。

主な構成領域
  DMNは単一の場所ではなく、離れた脳領域が機能的に結合したネットワークです。
 主要なハブ(中核)として以下の部位が挙げられます。

内側前頭前野(MPFC)
 自己参照、社会的認知

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後帯状皮質(PCC)/楔前部
 記憶の統合、意識の維持

下頭頂小葉(IPL)
 過去や未来のシミュレーション

💡 【コラム】DMNのライバル「CEN」とは?

 DMNと対になる重要な回路が、中央実行ネットワーク(Central Executive Network:CEN)です。

 これは、計算をしたり、論理的に考えたり、集中して作業をしている時に活性化する「集中モード」の回路です。 脳の仕組みとして、CENがオンになるとDMNはオフになり、DMNがオンになるとCENはオフになるという、シーソーのような「拮抗関係」にあります。

 「集中できない」という時は、このシーソーがうまく切り替わらず、DMN(雑念)が邪魔をしている状態と言えます。


2. 【機能】DMNが担う認知プロセス

 DMNは単に「休んでいる」わけではなく、内的な認知プロセスにおいて重要な役割を果たしています。
 主な機能は以下の通りです。

① 自己参照処理(Self-referential processing)

 「私」とは何か、という自己意識(アイデンティティ)の構築や、自分の感情・状態を内省するプロセスに関与します。

② 社会的認知と「心の理論」

 他者の意図や感情を推測する機能(メンタライジング)や、対人関係のシミュレーションを行います。

③ 時間的展望(Mental Time Travel)

 過去の記憶(エピソード記憶)を想起したり、それに基づいて未来の計画を想像したりする際に活性化します。

💡 【コラム】スマホの「バックウンドアプリ」

 DMNの働きは、スマートフォンの「バックグラウンドで起動し続けるアプリ」に例えられます。

 画面(意識)は消灯していても、裏側ではGPSが位置情報を取得し、メールアプリが新着を問い合わせ、システムの更新準備が行われています。 これと同様に、私たちが「何もしていない」と思っていても、脳の裏側ではDMNが常に情報の整理やシミュレーションを行い、膨大なバッテリー(エネルギー)を消費し続けているのです。


3. 【エネルギー代謝】脳疲労と創造性の二面性

 DMNの最大の特徴は、その極めて高いエネルギー消費量にあります。これには「疲労」という負の側面と、「創造」という正の側面があります。

基礎代謝の高さと脳疲労:

脳全体のエネルギー消費のうち、意識的な活動に使われるのはわずか5%程度に過ぎません。残りの約60〜80%は、DMNを含む脳の基底活動に費やされています。

DMNが過剰に活性化し続けることは、脳のリソース枯渇(脳疲労)の直接的な原因となります。

マインドワンダリング(心の迷走):

DMN活性時には、意識が「今、ここ」から離れる「マインドワンダリング」が発生しやすくなります。

これがネガティブな方向(過去の後悔や未来の不安)へ向かうと、うつ病や不安障害のリスクファクターとなります。

💡 【コラム】なぜ「お風呂」でアイデアが浮かぶのか?

マインドワンダリングは、ポジティブに働けば「創造性(ひらめき)」の源泉になります。

お風呂やトイレ、散歩中など、ぼんやりしている時(DMN活性時)にふと良いアイデアが浮かぶのは、DMNが脳内の離れた記憶同士をランダムに結びつけてくれるからです。 逆に、CEN(集中モード)で一点を見つめている時は視野が狭くなり、突飛なアイデアは生まれにくくなります。

「集中(CEN)して情報を集め、ぼんやり(DMN)して熟成させる」。 このリズムこそが、クリエイティブな脳の使い方と言えるでしょう。


4. DMNの制御とマインドフルネス

DMNは創造性や自己形成に不可欠ですが、現代人は情報の多さによりDMNが暴走(過活動)しやすい環境にあります。
意図的にDMNとCENのスイッチを切り替える能力が求められます。

アテンション・トレーニング
 意識的に注意を「呼吸」や「身体感覚」などの特定の対象に向けることで、DMNの活動を抑制し、CEN(タスク・ポジティブ・ネットワーク)を優位にさせることができます。

マインドフルネス瞑想の効果
 神経科学的研究において、マインドフルネスの実践は、DMNとCENの機能的結合を変化させ、マインドワンダリングからの「気づき」と「復帰」を早めることが報告されています。 これは、DMNによるエネルギーの浪費を食い止める、最も有効な休息法の一つです。


まとめ

デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)は、私たちの脳に備わった標準装備のシステムであり、エネルギーの大半を消費する「脳のアイドリング状態」です。

放置すれば「疲労」の原因になりますが、うまく付き合えば「創造」の源泉となります。
「あ、今考え事が止まらないな」と気づいたら、一度深呼吸をしてスイッチを切り替える。
そのコントロール感覚を持つことが、脳のパフォーマンスを最大化する鍵となります。