
はじめに
CEN(Central Executive Network:中央実行ネットワーク)とは、私たちが意識的に注意を向け、計算や計画、問題解決などの課題に取り組んでいる時に活性化する脳内ネットワークの総称です。
「ぼんやり」している時に働くDMN(デフォルト・モード・ネットワーク)とは対照的に、脳が外部の世界に対して能動的に働きかけている「集中モード」の状態を指します。 この記事では、CENの構成領域、ワーキングメモリとの関係、そしてDMNとの切り替えメカニズムについて解説します。
1. 【定義と構造】「タスク実行」のための回路
CENは、脳の中でも特に「知性」や「理性」に関わる高等な領域を結ぶネットワークです。
定義
目標指向的な課題(Goal-oriented tasks)を実行する際に同期して活動する神経回路網。 情報の保持、操作、意思決定といった「実行機能(Executive Function)」の中核を担います。
主な構成領域
CENは、脳の前方と後方の重要なエリアを橋渡ししています。
背外側前頭前野(DLPFC)
論理的思考、計画、ワーキングメモリ
後部頭頂葉(PPC)
空間的注意、感覚情報の統合
2. 【機能】スポットライトを当てる
CENが活性化している時、脳は「一点集中」の状態に入ります。
① ワーキングメモリの駆動
必要な情報を一時的に脳内に保持しながら、計算や推論を行う作業台(メモ帳)として機能します。 DLPFC(司令塔)が深く関与するため、CENの働きが弱いと「うっかりミス」や「段取りの悪さ」に繋がります。
② 選択的注意(フォーカス)
膨大な情報の中から、今必要なものだけに意識を向ける「スポットライト」のような機能を持ちます。 雑音の中で会話を聞き取ったり、読書に没頭したりできるのはCENのおかげです。
💡 【コラム】「マニュアル運転」モード
DMNが「自動操縦(オートパイロット)」だとすれば、CENは「手動操縦(マニュアルモード)」です。
初めての道を運転する時や、難しいゲームを攻略している時、私たちは無意識ではいられません。「右を見て、左を見て、ハンドルを切る」と意識的に操作します。 この時、脳のエネルギーは特定の回路(CEN)に集中投下され、その代わり「ぼんやり(DMN)」は強制終了されます。
3. 【メカニズム】DMNとのシーソー関係
CENを理解する上で最も重要なのが、DMNとの「拮抗関係(Anticorrelation)」です。
シーソーの原理
健常な脳では、CEN(集中)が活性化するとDMN(安静)が抑制され、逆にDMNが活性化するとCENは静まるという、シーソーのような逆相関の関係にあります。 「集中しているのに雑念が浮かぶ」という状態は、このシーソーがうまく傾かず、両方が中途半端に動いている(干渉し合っている)状態です。

切り替えスイッチ「SN」
この2つのモードを切り替えるスイッチ役として、「サリエンス・ネットワーク(SN)」という第3の回路が存在します。 SNが外部の刺激を検知し、「お、これは重要だ!集中せよ!」と判断すると、脳のモードをDMNからCENへと瞬時に切り替えます。
💡 【コラム】「スイッチ役」も疲れる
現代人は、スマホの通知などで頻繁に注意を削がれます。 これは「集中(CEN)」と「ぼんやり(DMN)」のスイッチをカチカチと連打されている状態です。
この切り替え過多は、スイッチ役である「サリエンス・ネットワーク」や「島皮質(とうひしつ)」を疲弊させ、結果として「集中もできないし、休まらない」という慢性的な脳疲労を引き起こします。
4. CENを鍛え、起動する方法
CENは「筋肉」のように、使うことで強化することができます。
シングルタスクの徹底
「一度に一つのこと」に意識を向ける訓練は、CENの結合を強化します。マルチタスクはスイッチ(SN)を消耗させるだけです。
新しいことへの挑戦
慣れた作業はDMN(自動操縦)で処理できてしまいます。初めての楽器、新しい言語、知らない道など、「意識しないとできないこと」に取り組む時、CENはフル稼働します。
まとめ
CEN(中央実行ネットワーク)は、私たちが人生を主体的に切り拓き、複雑な問題を解決するための「理性の剣」です。
DMN(アイドリング)も大切ですが、ここぞという時にCENへカチッと切り替えられる「集中力」こそが、パフォーマンスの鍵を握ります。
通知を切り、目の前の「ひとつ」に没頭する時間を持つこと。それが最強のCENトレーニングです。














