【脳科学】なぜ「勉強」はすぐ忘れるのに、「漫画」は一生覚えているのか?反復不要の記憶ルート「情動記憶」の秘密

【脳科学】なぜ「勉強」はすぐ忘れるのに、「漫画」は一生覚えているのか?反復不要の記憶ルート「情動記憶」の秘密

学生時代、英単語や歴史の年号を覚えるのにはあれほど苦労したのに、昔読んだ大好きな漫画の名セリフや名シーンは、たった一度読んだだけで、何十年経っても鮮明に覚えていませんか?

私たちは学校で、「記憶を定着させるには、反復(繰り返し)が必要だ」と教わってきました。
では、なぜ漫画は、何度も繰り返し読まなくても記憶に残っているのでしょうか?
これは、脳科学的に矛盾しているのでしょうか?

いいえ、実は矛盾していません。
私たちの脳には、地道な「反復」というプロセスをショートカットして、一撃で記憶に焼き付ける「裏ルート」が存在するのです。

今回は、その裏ルートの正体と、その仕組みを大人の勉強や仕事に応用する「漫画式記憶術」を解き明かします。


第1章:脳の矛盾?「反復」VS「感情」

なぜ、勉強は忘れやすく、漫画は忘れにくいのか。
その答えは、脳の「記憶のルート」の違いにあります。

王道ルート:「海馬」と反復

通常、私たちが目や耳から得た情報は、脳の司令塔である「海馬(かいば)」に一時保管されます。
海馬は、情報の選別係です。「これは明日も使う情報か?」と審議し、何度も入ってくる(反復される)情報だけを「重要」と判断して、長期保管庫である「大脳皮質」へ送ります。
これが、勉強に「反復」が必要とされる理由です。

裏ルート:「扁桃体」と感情

しかし、海馬のすぐ隣に、もう一つ重要な器官があります。それが「扁桃体(へんとうたい)」です。
扁桃体は、「好き・嫌い」「怖い・嬉しい」といった「感情」を司る部位です。

ここが強く震えると、扁桃体は隣の海馬に対して、こんな緊急指令を出します。
「おい海馬!今、感情が激しく動いたぞ!これは生存に関わる重要事項だ!反復を待たずに、直ちに保存せよ!」

つまり、漫画を読んで「面白い!」「悲しい!」「熱い!」と感情が動いた時、脳は「反復」という手続きをスキップして、記憶のスタンプを強烈に押しているのです。
これを専門用語で「情動記憶(じょうどうきおく)」と呼びます。


第2章:漫画が最強の教科書である「3つの脳科学的理由」

「感情」以外にも、漫画には脳の記憶システムをハックする、優れた仕掛けが満載です。

① 二重符号化説(Dual Coding)

脳は、「文字」よりも「画像」を処理・記憶するのが圧倒的に得意です。
漫画は、「セリフ(言語情報)」と「絵(視覚情報)」がセットになっています。これにより、脳内に別々のルートから「2本の杭」が打ち込まれることになり、記憶が抜けにくくなります。

② 文脈(コンテキスト)の力

記憶とは「関連付け」です。単語帳のように独立した情報は覚えにくいですが、漫画は「ストーリー(文脈)」の中に情報が埋め込まれています。
「あの敵を倒した時の技」というように、前後の文脈があるため、芋づる式に思い出しやすくなるのです。

③ ドーパミンの放出

漫画を読んでいる時、脳は「次はどうなる?」と常に予測し、ワクワクしています。この時、脳内では快楽物質「ドーパミン」が放出されています。
実はドーパミンには、記憶の定着(シナプスの結合)を加速させる作用があるのです。


第3章:実践!明日から使える「漫画式」記憶術

では、この「漫画の仕組み」を、退屈な勉強や仕事の覚え書きにどう応用すればいいのでしょうか?
絵心がなくても大丈夫。明日から使える、具体的な3つのテクニックをご紹介します。

術①:無機質なデータに命を吹き込む「感情タグ付け法」

仕事の数字や、資格試験の用語など、感情が動かない情報を覚える時のテクニックです。
あえて、過剰な演出(ツッコミ)を入れて、扁桃体を刺激します。

  • 【歴史の年号を覚える場合】
    • ただ「1192年 鎌倉幕府成立」と棒読みしてはいけません。
    • 「いい国(1192)作ろうと言っておきながら、実は実の弟を追放した冷徹な頼朝…怖すぎるだろ!人間じゃない!
    • このように、心の中で激しくツッコミを入れ、感情を動かします。
  • 【仕事の数値を覚える場合】
    • 「今の目標達成率は80%」という数字。
    • 「あと20%足りないなんて、ドラマならここで主人公が覚醒して大逆転するピンチの場面だ!ここからが本番だ!
    • 勝手にドラマチックな意味づけをします。

これだけで、脳はそれを「ただの数字」から「感情を伴うエピソード」へと格上げして保存します。

術②:絵心ゼロでもOK!「棒人間図解法」

メモを取る時、文字だけで書いていませんか?漫画の「二重符号化」を利用しましょう。

  • 【関係性を覚える場合】
    • 「A社とB社が提携して、C社に対抗する」という情報をメモする時。
    • 文字だけでなく、横に「棒人間A」と「棒人間B」が手を繋ぎ、「棒人間C」に向かって矢印(→)や剣を向けている図を、3秒で書き加えます

「絵が下手」でも関係ありません。脳が「視覚情報」として処理したという事実が、記憶の定着率を倍増させます。

術③:バラバラの情報を繋げる「ストーリー化メソッド」

買い物リストや、プレゼンの構成など、複数の項目を順番通りに覚えたい時の最強テクニックです。
こじつけで良いので、強引に一つの「物語(ストーリー)」にします。

  • 【買い物リストを覚える場合】
    • 覚えたいもの:「牛乳」「洗剤」「電池」
    • ストーリー化:牛乳の川を泳いでいたら、巨大な洗剤の泡怪獣が現れて、最後はウルトラマンのように電池のビームで撃退した!」

バカバカしければバカバカしいほど、扁桃体が反応し(笑いや驚き)、強烈に記憶に残ります。これが「記憶の達人」たちが頭の中でやっていることの正体です。


まとめ

あなたが物覚えが悪いのではありません。
脳の使い方が、感情を使わない「退屈なルート(反復)」を通っていただけです。

漫画を読む時のように、情報にツッコミを入れ、落書きをし、勝手にストーリーを作る。
楽しみながら脳を刺激することこそが、最も効率的で、最強の記憶術なのです。
ぜひ、今日から試してみてください。