- 心理学・脳科学
- 2025年7月3日
【悲報】つまらない映画を最後まで見てしまう人は時間とお金を浪費している。~サンクコスト効果から抜け出す心理学~
「うーん、この映画、正直あんまり面白くないな…。でも、チケッ……


「1万円貸してくれない?」

「えっ、無理だよ」

「じゃあ、千円だけでいいから!」

「……まあ、千円ならいいよ」
こんな経験、ありませんか?
実はこれ、高度な心理テクニックにまんまとハマっています。

最初にわざと断られるような「大きな要求」を出し、断らせた直後に「本命の小さな要求」を通す。
これを心理学で「ドア・イン・ザ・フェイス(Door-in-the-face)」と呼びます。
今回は、なぜ人は「一度断ると、次は断れなくなるのか?」
その裏にある2つの強力な心理メカニズム(返報性・知覚のコントラスト)を、あの有名な「動物園の実験」とともに解説します。
定義
本命の要求を通すために、あえて「NO」と言わせる大きな要求を前置きにする交渉術。
別名
譲歩的要請法(Rejection-then-Retreat)
「ドア・イン・ザ・フェイス(門前払い)」という名前は、訪問セールスマンがとりあえずドアを開けてもらう……のではなく、「顔の前でドアをバタン!と閉められるような無理な要求をあえて行う」ことから名付けられました。

「小さな要求から徐々に大きくする」テクニック(フット・イン・ザ・ドア)とは真逆の、短期決戦型のアプローチです。
このテクニックが強力な理由は、私たちの脳に刻まれた2つのバグ(習性)を突いているからです。

人は他人から何かをしてもらうと、「お返しをしなければならない」という強い義理を感じます。
相手が「1万円」という要求を取り下げて、「千円」に譲歩してくれた。
これに対し、脳はこう反応します。
「相手が譲歩してくれたんだから、こっちもお返しに譲歩してあげないと悪いな(=次の要求くらいは聞いてあげよう)」
つまり、これは説得されたのではなく、「譲歩のお返し」をさせられているのです。
もう一つ重要なのが、直前に見たものとの比較で感じ方が変わる「知覚のコントラスト(Perceptual Contrast)」です。

最初に「1万円(重い要求)」を見せられることで、次の「千円(本命)」が、実際以上に軽く、手頃なものに見えてしまうのです。
いきなり「千円貸して」と言われるより、はるかに安く感じる。これが脳の錯覚です。
すると、氷水につけていた手は「温かい」と感じ、お湯につけていた手は「冷たい」と感じます。
同じ水(本命の要求)でも、直前に何に触れていたか(過大な要求)によって、感じ方は180度変わるのです。
1975年、心理学者のロバート・チャルディーニらは、この効果を証明するために大学生を対象にある実験を行いました。

実験内容
大学生に対し、「非行少年のグループを連れて、動物園に2時間の引率ボランティアをしてくれないか?(本命の要求)」と依頼しました。
🅰️ 普通に頼んだ場合
承諾率はわずか16.7%でした。「面倒くさい」と断られて当然です。
🅱️ ドア・イン・ザ・フェイスを使った場合
まず、「2年間、毎週2時間のカウンセリング・ボランティアをしてくれないか?(過大な要求)」と頼みます。
当然、全員が断ります(ドア・イン・ザ・フェイス)。
その直後に、「じゃあ、せめて1回だけ、動物園の引率だけでも…」と頼みました。
すると、承諾率はなんと50%に跳ね上がりました。
(Cialdini et al., 1975)
「2年間の拘束」という岩のような要求を見せた後では、「たった1回の動物園」が小石のように軽く見えたのです。
このテクニックは強力ですが、使い方を誤ると「ただの図々しい人」になって信用を失います。
成功させるには手順が重要です。

明らかに無理でも、冗談とは思われないギリギリのライン(真剣な要求)を提示します。
×「1億円貸して」(冗談と思われる)
○「来週の日曜日、一日手伝って」(真剣だが、相手には重い)
断られたら粘ってはいけません。「そうですか…残念です」と潔く引き下がり、「譲歩した姿」を見せます。
時間が空くと「コントラスト効果」が薄れます。断られた直後の「罪悪感」が残っているうちに、「では、せめてこれだけでも」と本命を切り出します。
ドア・イン・ザ・フェイスは、相手の「罪悪感」と「誠意」に訴えかける交渉術です。

大切なのは、相手を騙すことではありません。
「お互いに譲歩し合って、納得できる着地点を見つけた」という達成感を演出することです。
「無理を承知でお願いがあるのですが…」
この切り出し文句は、ここぞという時の武器になりますよ。