
【リード文(導入)】
「この重要な要求、なんとかして通したい…」
「でも、ストレートに頼んだだけでは、難しいかもしれない…」
仕事の重要な交渉や、少し無理のあるお願いなど、ここ一番で要求を通したい正念場。そんな時、あなたならどうしますか?
実は、そんな時こそ「あえて、一度相手にNOと言わせる」ことが、最終的なYESを引き出す鍵になるかもしれません。
今回は、前回ご紹介した「フット・イン・ザ・ドア」とは全く逆のアプローチを取る心理テクニック「ドア・イン・ザ・フェイス」を解説します。
「ドア・イン・ザ・フェイス」とは?
「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック(Door-in-the-face Technique)」とは、まず相手がほぼ確実に拒否するような過大な要求をし、それが断られた後に、より小さな、本命の要求を提示するという交渉術です。
セールスマンが、最初に高額な商品を提示して断られ(顔の前でドアを閉められ)た後、より安価な商品を提示して契約を取る、というイメージから名付けられました。
なぜ効果があるのか?:心理学の「返報性の原理」
この一見、無謀に見えるテクニックが機能するのは、私たちの心に備わった「返報性の原理」のおかげです。
「返報性の原理」とは、「他人から何か施しを受けたら、お返しをしなければならない」と感じる心理のことです。
相手から見ると、あなたが最初の過大な要求から、より小さな要求へと変更することは「譲歩」という一種の「施し」に見えます。すると相手の心には、「相手が譲歩してくれたのだから、自分も断るばかりでなく、譲歩に応えなければ申し訳ない」という気持ちが芽生えるのです。
また、一度要求を断ったことによる、わずかな罪悪感も、次の要求を受け入れやすくする後押しとなります。
実践!3つのステップと具体例
この少し高度なテクニックを成功させるためのステップを見ていきましょう。
#### ステップ1:「捨て駒」となる過大な要求を準備する
最初に提示する要求は、断られることが前提の「捨て駒」です。ただし、あまりに非現実的すぎると、相手に不信感を与えたり、ふざけていると思われたりするので注意が必要です。相手が「うーん、それはさすがに無理だよ」と、真剣に悩んだ上で断るレベルが理想です。
#### ステップ2:最初の要求を真剣に提示し、断られる
あくまで本気でその要求を通したい、という態度で伝えます。相手に断られたら、少し残念そうな表情や間(ま)を置くのが効果的です。
#### ステップ3:「譲歩案」として、本命の要求を切り出す
「そうですか…では、せめてこれだけでもお願いできないでしょうか」と、一歩引いた形で本命の要求を提示します。
【具体例:職場で】
- ステップ1&2(過大な要求とNO)
「部長、来週のイベントの予算ですが、現状の50万円から、倍の100万円に増額していただけないでしょうか。新しい企画をどうしても実現したいのです」
「100万円!?いや、それは前例もないし、さすがに承認できないよ」 - ステップ3(本命の要求)
「そうですか…厳しいですよね…。では、なんとか現状にプラス20万円、70万円だけでも確保することはできませんでしょうか。それがあれば、最低限のプランは実行できるのですが…」
いきなり「20万円増額してください」と頼むよりも、相手が「100万円に比べれば…」「彼も譲歩してくれたし…」と考え、要求が通りやすくなります。
「フット」と「ドア」、どっちを使う?
この2つのテクニック、どう使い分ければ良いのでしょうか。
- フット・イン・ザ・ドア向きの状況
- 相手との長期的な関係を築きたい時
- 相手に「自発的に」行動してほしい時
- 小さなYESを積み重ねて、徐々に大きなゴールを目指す時
- ドア・イン・ザ・フェイス向きの状況
- 一回きりの交渉や、短期的な合意形成が目的の時
- どうしても通したい、明確な要求(落とし所)がある時
- 相手との力関係が対等か、こちらが少し下である時
まとめ
「ドア・イン・ザ・フェイス」は、相手の心理を巧みに利用する、少し高度なテクニックです。乱用は禁物ですが、ここぞという場面で使えば、あなたの強力な武器となるでしょう。
大切なのは、相手を打ち負かすことではなく、お互いの譲歩点を見つけ出し、双方にとって良い結果に着地させること。そのための戦略の一つとして、頭の片隅に置いておいてください。