
SNSのタイムラインに、自分の意見と全く同じ投稿ばかりが並び、「やっぱり自分は正しいんだ!世の中の分かっていない連中とは違う!」と、気持ち良くなった経験はありませんか?
その快感が、実は、あなたの脳が仕掛けた巧妙な「罠」の始まりだとしたら…?
今回は、どんなに賢い人でも、気づかぬうちに思考を支配されてしまう、最も身近で、最も恐ろしい脳のバグ「確証バイアス(かくしょうバイアス)」の正体に迫ります。
第一章:「見たいものしか見えなくなる」脳の、サボり癖
確証バイアスとは、一言で言うと、「自分がすでに持っている信念や仮説を、裏付けるような情報ばかりを、無意識に探し、そして、それに価値を置いてしまう」という、心のクセのことです。
逆に、自分の信念に反する情報は、無視したり、欠陥を探したりします。
これは、あなたの性格が悪いからではありません。私たちの脳が、非常に「省エネ」になるようにできているからです。
新しい情報や、自分の信念に反する情報に出会うたびに、いちいち「自分の考えは、本当に正しいだろうか?」と、ゼロから検証し直すのは、脳にとって大変なエネルギーを消費します。
それよりも、「やっぱり自分の考えは正しかった!」と確認する方が、はるかに楽で、そして、脳にとっては「気持ちいい(ドーパミンが出る)」のです。
第二章:SNSのアルゴリズムは、あなたの「確証バイアス」を加速させる
この脳のクセを、現代において、さらに強力に増幅させているのが、YouTubeやXなどのアルゴリズムです。
アルゴリズムは、あなたが一度でも「好き」だと示した情報と、似たような情報ばかりを、あなたのタイムラインに届け続けます。
その結果、あなたは、自分と同じ意見ばかりに囲まれた、心地よい「エコーチェンバー(反響室)」の中に閉じ込められます。
その中では、自分の意見が、まるで「世界の常識」であるかのように感じられ、自分とは違う意見を持つ人々が、愚かで、間違っているように見えてしまうのです。
「陰謀論」にハマってしまう人が後を絶たない背景には、この脳のクセと、アルゴリズムの強力なタッグが存在します。
第三章:【処方箋】自分の“脳のクセ”から抜け出す、3つの思考トレーニング
では、どうすれば、この無意識の思考の罠から抜け出せるのでしょうか。
1. 「反対意見」を、あえて探しに行く
月に一度、一日10分でも構いません。信頼できる情報源(書籍や、定評のあるニュースサイトなど)の中から、自分とは真逆の意見を、意識的に探し、読んでみましょう。目的は、相手を論破することではありません。「なるほど、こういうロジックで、こういう考え方もあるのか」と、自分の中の「当たり前」を、一度、外から眺めてみるのです。
2. 自分の中に「悪魔の代弁者」を置く
自分の意見に対して、「本当にそうか?」「もし、自分が間違っているとしたら、どんな可能性があるだろうか?」「この意見の、最大の弱点はどこだろうか?」と、意地悪な質問を投げかける、もう一人の自分を、頭の中に育てましょう。この内なる対話が、あなたの思考を、より深く、そして客観的にします。
3. 「事実」と「自分の解釈」を切り分ける
「〇〇というデータがある(事実)」と、「だから、△△に違いない(自分の解釈)」を、意識的に分けて考える訓練です。私たちは、事実そのものではなく、自分の確証バイアスによって色付けされた「解釈」を、事実だと思い込みがちです。
まとめ
本当の知性とは、自分の正しさを証明し続けることではありません。
それは、「自分は、間違っているかもしれない」という可能性を、常に心の中に持ち続ける、謙虚さと、勇気のことなのです。
あなたの脳の、最も手ごわいクセを知ること。
それが、情報という大海原を、賢く航海していくための、第一歩となるはずです。