
「また、あの嫌なことを思い出して、不安になってきた…」
「人前に出ると、心臓がバクバクして、頭が真っ白になる…」
私たちの心に、そんな「不安」や「恐怖」といった感情が、嵐のように吹き荒れる時。その震源地となっているのが、脳の奥深くにある「扁桃体(へんとうたい)」という小さな領域です。
今回は、私たちの感情の“番人”とも言える、この扁桃体の正体に迫ります。
扁桃体とは?脳の「警報装置(セキュリティシステム)」
扁桃体は、脳の側頭葉の内側にある、アーモンド形の小さな神経細胞の集まりです。
その最も重要な役割は、「危険の察知」。
目や耳から入ってきた情報の中に、過去の経験と照らし合わせて、「これは危険かもしれない!」と感じるものがあると、瞬時に警報を鳴らし、心と体に「闘争・逃走反応(Fight-or-Flight Response)」の準備をさせる、非常に原始的で、パワフルな“警報装置”なのです。
なぜ、現代人は「扁桃体」が暴走しやすいのか?
この警報装置は、私たちがライオンに襲われるような、生命の危機から身を守るためには不可欠でした。
しかし、現代社会では、生命の危機はほとんどありません。その代わりに、仕事のプレッシャー、人間関係のストレス、SNSでの批判といった、社会的なストレスに、私たちは常に晒されています。
扁桃体の厄介なところは、ライオンから受けるストレスも、上司からの叱責によるストレスも、区別がつかないことです。
そのため、現代人の扁桃体は、本来であれば命の危険がないはずの社会的ストレスに対しても、過剰に警報を鳴らし続け、結果として、慢性的な不安や恐怖、イライラといった状態を引き起こしてしまうのです。
暴走する“警報装置”を、優しくなだめる3つの方法
では、鳴り響く警報を止めるには、どうすればいいのでしょうか。
1. ゆっくり、息を吐く(呼吸法)
最も即効性のある方法です。扁桃体が興奮すると、呼吸は浅く、速くなります。逆に、意識的に「吐く息」を長く、ゆっくりにすることで、リラックスを司る副交感神経が優位になり、扁桃体の興奮を、直接的に鎮めることができます。
2. 感情に「名前」をつける(ラベリング)
不安に飲み込まれそうになったら、「ああ、今、私は“不安”を感じているな。扁桃体が、警報を鳴らしているんだな」と、自分の感情を客観的に実況中継してみましょう。この行為は、脳の理性的な部分(前頭前野)を活性化させ、感情の暴走にブレーキをかける効果があります。
3. 自分に、優しく語りかける(セルフコンパッション)
「不安になるなんて、自分は弱い人間だ」と、自分を責めないこと。「怖かったね」「不安に感じて当然だよ」と、まるで小さな子供をあやすように、自分自身に優しく語りかけてあげましょう。この「自己への優しさ」が、扁桃体に「ここは安全な場所だ」と教え、警報を解除する助けになります。
まとめ
扁桃体は、決してあなたを苦しめるための「敵」ではありません。
あなたを危険から守ろうと、常に頑張ってくれている、忠実な番犬のようなものです。
その特性を理解し、優しくなだめる方法を知ること。それが、心の平穏を取り戻すための、科学的で、賢明な第一歩なのです。