【白猫怪談】心霊写真探し

カウンターに一人の男性客が座っている。単発で目つきの険しい男がウイスキーを飲んでいる。
カウンターの内側には女性のバーテンダーが立っている。切れ長の目をした長く綺麗な黒髪の女性である。
バーテンダーは男に何かを話しかける。
男はつまらなそうにしてスマートフォンを取り出し、何かを操作して画面をバーテンダーに見せる。
バーテンダーは男の手元からスマートフォンを取り上げ、画面の一点を凝視する。男は一瞬だけ訝しげにバーテンダーを見上げる。次の瞬間には興味をなくしたようにタバコを咥えて火をつける。
冬が近づき、肌寒くなってきた秋の日のとあるバーでの光景である。

バーテンダーは男のスマートフォンを操作し、いくつかの写真を眺め、口元に笑みを浮かべる。
男は紫煙を燻らせながら何事かをバーテンダーに伝える。
バーテンダーは画面を見せながら男に何かを説明している。
男はそれを取り上げ、画面を凝視する。
バーテンダーは自分のスマートフォンを操作し、その画面を男に見せる。
男は何かに気づいたように煙草の火を灰皿に押し付ける。そして首を傾げてバーテンダーを見上げる。

小さな猫の瞳にはそんな様子が写っていた。
ろくすけと名付けられた白猫は捨て猫だった。いつ生まれて、いつ捨てられたのか覚えていない。気づけば泣いていた。満足に歩くこともできなかったが、それでも明かりを求めて歩いていた。すれ違う誰もが自分の存在を認めてくれなかった。それでも存在するために泣いた、そして歩いた。
どれだけ泣いたかわからない、どれだけ歩いたかわからない。自分は存在してはいけないのかと思いながらも必死に存在しようとした。そして、それに応えてくれたのがこの二人だった。

二人は心霊写真について話をしていた。男が撮影してきたという写真をバーテンダーに見せると、バーテンダーは面白がるようにして次々と写真に目を通す。
そして、何枚かの写真を選び、男に見せて説明をする。
しかし、男はよくわからないという態度で首を傾げる。
「顔に見えなくはないけど、たまたまだろ。」
確かにそうかもねとバーテンダーは応える。
バーテンダーは心霊写真を見つけ出すのが得意だった。より正確にいうと、顔のように見えるもの、手足のように見えるもの、人のように見えるものを写真の中から見つけ出すのが得意だったのだ。本人としても、それを全て「心霊写真」と呼ばれるものだとは思っていない。ただ、「心霊写真のようなもの」を探しだす能力が高いために、周りからは「霊感が強いんだね。」と言われたり、場合によっては気味悪がられることがよくあった。
そういった点で、この男は特別だった。バーテンダーのことを特別視するわけでもなく、否定するわけでもない。まして怖がるわけでもない。
見ると死を招くとか、警告しているとかいう写真があるというが、この男がいうには、その目的がわからないのだという。
もし仮に見たものを殺す写真があったとして、何が目的なのか。もし殺すことを目的にするのなら、直接殺しに行った方が早い。不特定多数を殺したいとしても、いつ誰が見てくれるのかわからない写真にそのようなトラップを仕掛けるのは効率が悪すぎるという。
警告に関しても、気づいてもらえないかもしれないような警告をするよりも、直接警告したほうが確実で早い。
もし、心霊写真があるとすれば、お化けが活動中にたまたま偶然、なんとなく写真に写ってしまったというものだろうというのが男の持論であった。
二人は適当に撮影した写真を持ち寄って、男のいう「心霊写真」を探していたのだった。
男曰く、本当の心霊写真は、「お化けがくっきり写っているはずで、さらに、うっすら透けている。」のだという。
バーテンダーはこれまでにいなかった価値観ををもつ人間に興味を持ち、これまでコンプレックスにもなりかけていた自分の能力を発揮して、「心霊写真」を探しているのだ。
お互いのスマートフォンの写真を見尽くして、男はほぼ諦めているようだったが、バーテンダーは楽しくて仕方がなかった。
しかし、全ての写真に目を通し終えてしまうと、目的の写真がなかったことに肩を落とす。
二人の顔がそれとなくボックス席に向く。
白い猫がテーブルの上で丸まっている。二人が笑顔になる。
店内には二人しかおらず、金曜日ではあるが、おそらく客も来ることはない。
二人はグラスを持ち、白い猫を挟んで対面に座り、乾杯する。
バーテンは後ろで結んでいた髪をほどき、背もたれに体重を預ける。
男は思い出したようにカウンターからスマートフォンを持ってきてカメラを起動させ、テーブルの上の白い猫と女の写真を撮影する。何枚か撮影し、そのスマートフォンを女に渡す。
女は画面を操作し、手をとめ、目を輝かせて男に画面を見せる。
テーブルの上で丸まっている白い猫、その猫を毛繕いするようにうっすら写る白い猫、笑顔で猫を見ている長い黒髪の女性。
男は笑い、猫の頭を撫でる。女も笑い猫のしぽを撫でる。
店の外には夜がふけ、絹のような雨が降っていた。

私がこの記事を書いたよ!

テリー

いつも自由にやらせてもらってますが、最近、健康のことにも気を使わないとなと思い、ブログを書きながら、自分自身も健康に対する意識を高めてみようかなと考えています。あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の国家資格を持っているので、体のことや健康のことにはそれなりに詳しいです。 なぞなぞと手品が大好きです。

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